第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
チェルに支えられながら駅まで辿り着いた。
人混みの中を歩く事は出来ない俺は、チェルに切符を買いに行ってもらった。

ちゃんとした義足を新調したいものだ。裏社会だと、自身に合う義足が中々手に入れる事が出来ない。
この義足も調子が悪い時は、松葉杖がないと歩けない時がある。
過去に何があったかは秘密だけどな。


「ナタリア~!切符買ったよ!もうすぐ電車来るからね。」

「はいよ。」

「近くまで行こう。ナタリアは遅いから。」


笑顔で言われると腹立たしいな。
事実だから、一様に否定出来ないけど...。

チェルに連れられ、電車の改札口まで移動する。
電車が到着するとチェルが先頭を切って、進んでくれた。お陰で、ちゃっかり座席を獲得出来た。

電車が動き始めると、チェルが俺の白衣を引っ張った。
ガスマスク越しから、チェルに視線を向ける。


「何だよ。」

「ちょっと...、やっていい?」


チェルが腕に注射をするジェスチャーをする。
此処公共の場だろ。


「バレんなよ。」

「了解。」


笑顔を向けられても困るわ。
チェルはフード付きのジャケットのポケットから、小さな注射器と薬の入った瓶を取り出すと、注射器に薬を入れた。
其のまま腕を巻くって、慣れた手つきで注射を刺した。

注入している時のチェルの表情は、其れは気持ち良さそうな表情だ。
薬を入れ終わると素早く注射器をポケットに直した。
そして、何故か俺に笑いかける。


「ナタリアもする?」

「医者に進めんな、馬鹿野郎。」


そう言ってチェルの頭を殴る。
今は闇医者やってるけど、これでも前は医者会のお偉いさんやってたんだぞ。


「ナタリア、痛いよ~。」

「馬鹿な事言ってると、禁断症状でも放置するぞ。」

「其れだけは止めてよ!!洒落にならないから!」


頭を摩りながらチェルは俺に文句を言った。
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