第1巻 Sicario ～哀しみに囚われた殺人鬼達～

話を聞いても俺が解る事など、何1つ無かった。
まず考える事自体が、俺に向いていない。
頭の後頭部で手を組み、椅子の背もたれに身を預けた。
其の行動にギフトが目をやる。


｢暇なら、誰か殺ってきたらどうだい?夕飯までに、帰ってくるなら僕は何も言わないよ。｣

｢んじゃ、そーする。｣


ナタリアが俺を恐ろしそうな目で見てくる。
俺は何もしていないぞ、一体何なんだ。

ギフトもナタリアの表情に気が付いたのか、楽しむような顔を見せた。


｢そんなに怖がる事無いだろ。ちょっと殺るってだけさ。｣

｢人を何だと思ってんだ...。お前等は...。｣

｢...動く肉塊に決まってんだろ。如何したんだ、ナタリア?｣

｢ハハ...ｯ、お前等マジで、狂ってんだろ...。｣


ナタリアは溜息に等しい呟きを発した。


｢何か文句あんのか?｣

｢...ねぇーけどよ。普通、暇だからって命奪わねぇーよ...。｣


俺を睨み付けるように、ナタリアが俺の目を凝視する。
医者としての意見だな...。
確かに大事だが、其処まで執着する事では無いだろう。

俺はナタリアが着ている白衣の胸ぐらを、掴み上げた。
ナタリアの黒い瞳と俺の瞳が淡く碧い瞳が重なり合う。
嗚呼、此奴...怒っていたのか。


｢命に執着し過ぎなんじゃねぇーの。...1回死んでみろよ。もっと簡単に殺せるぜ。｣

｢まるで、お前が1回死んだみてぇーじゃねぇーか。｣

｢さぁ、如何だか...。お前の記憶でも振り返ってみやがれ。｣


ナタリアの胸ぐらを離すと、俺は部屋にコートを取りに向かった。
外は寒いからな、薄着では風邪を引いてしまう。

部屋に向かう時、チェルの顔が見えた。
此奴も妙に怖がっている。おいおい、俺は何もしていないじゃないか。