第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
「記者なんですか?」

「雑誌のね。事件やスクープを追う毎日さ。」


事件...か。もしかしたら俺関連の記事も載ってるかもしれないな。
物的証拠や目撃者もいないから、俺に辿り着く事は無い筈だ。
俺の知り合いを知らない限りな。


「どんな事件を追っているんですか。」

「通り魔の類かな。この国はそう言うの珍しくないけどね。治安悪いし...。」

「其れじゃ、雑誌売れないんじゃないの。」


俺の質問に男は照れ臭そうに、頬を掻きながら答えた。


「小さい子供が居るんだ。其の子が安心して暮らせるように、1つでも犯罪を無くしたくてね...。
此れがそう言う事に繋がると嬉しいんだけど。」

「お子さんが居たんですね。」


ガキが居たのか、此奴が死んだらさぞかし悲しむだろうな。
此奴の女もガキと一緒に泣き叫ぶんだ。きっと生活も厳しくなる。此奴の墓の目の前で、ずっと周りの目も呉れずに泣き続けるんだ。

けど、安心しろよ。
泣き疲れた時は俺が連れて逝ってやるぜ。
この男の墓標に女とガキの頭を並べてやる。
切り離した胴体は墓標に沿って寝かせてやる。
なぁ、俺って優しいだろ。

数m先に電灯の無い路地裏が見えた。薄暗くて丁度殺りやすい環境だ。


「やっと“パパ”って呼んでくれたんだ。とても可愛い子なんだ。妻に顔付きがそっくりでさ。」

「将来が楽しみですね。女の子なんですか?」

「あぁ、そうだよ。」


男は楽しそうに語る。
絶望したら一体どんな顔をするのだろうか。
青ざめるのか、泣き叫ぶのか、混乱するのか、命乞いをするのか。
「子供が居るんだ!!助けてくれッ!!」って俺に言ってくるのだろうか。

もうすぐ、お前の反応が見えると思うと...ゾクゾクするな。
俺を楽しませてくれるよな。
...善良な一般国民。


「ねぇ、おじさん。『狂人』って知ってるかい?」

「知ってるよ、有名だからね。目撃者を出さない徹底さを持っているって聞いてる。
其れが如何したんだい?」

「いえ...夜道は気を付けてと、言いたかっただけですから。」


俺が台詞を言い終えると、丁度裏路地と男が一直線に並んだ。
勢いに任せて俺は男の胸に飛び込んだ。男はバランスを崩し、裏路地へ上半身が入った。
< 212 / 277 >

この作品をシェア

pagetop