第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
男は現状が掴めていないのか、俺を見つめたまま固まっている。
叫ばないのは良い判断だと思う。早死にしなくてすむんだからな。


「君...何を...。」

「おい、おっさん。良かったな。
生きて帰りゃ、特ダネスクープだぞ。」

「巫山戯(ふざけ)ているのか!?」


コートのポケットからナイフを取り出し、男の喉仏に翳(かざ)す。


「此れから言葉には気を付けろよ。早死したく無かったらな。」


男は大人しくなり、抵抗もしなくなった。
唯荒い息と今俺の耳が当たっている胸の音が、五月蝿く鳴り響いている。

俺は男に馬乗りすると、まず脚の方を向いた。
そして両足を掴むと、抵抗の無い男のアキレス腱にナイフを通した。
男は叫び声をあげると思ったが、自身の手を血が出るまで噛み付いていた。
我慢強い奴だな。


「頭使ったな、おっさん。
まぁ、心配すんな逃げない様にしただけだ。」

「君は...何、者...なんだ...?」

「記者は知りたがりだな。良いよ、教えてやる。特別だぜ。
俺の名前はセルリア、お前等が勝手に付けた名前で言うなら...『狂人』だ。」

「...き、み...が、あの...『狂人』」


男は驚いた様に、目を見開いた。
何だ、俺が『狂人』だった事がそんなに意外だったのか。
『狂人』なんて名前付けたのは、ギフトだがな...毎回余計な事しやがる。

狂った人なんて2つ名付ける奴がいるか、普通。
大体俺はギフトより狂ってはいない。其処は断言出来る。


「おっさん。あんた、ガキがいたな。女の子って言ってたな。」

「あの子に手出しはさせ無いッ!!止めてくれ!!!」

「黙れって...顔も知らねぇーのに殺らねぇーよ。
其れより、ゲームをしよう。おっさんの生命力が、どれくらいなのかを試すんだ。」

「何を、する気だ...。」


俺はナイフを手で踊らせながら、口角を上げ微笑んだ。


「以前、本で見た事があるんだ。倭王帝国の拷問に関する本でさ、俺は滅多に本なんか見ないけど、其れは興味が湧いてさ。
そしたら俺好みのが結構あって、今回が初めてだけど...おっさんで試させてもらうぜ。」


男は悟ったのだろうか、顔を青くした。
そんな早くに、そんな顔するなよ。
もっと楽しく殺ろうぜ。
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