第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
「やっと取れた...。おい、おっさん!生きてるか?」

「ぁ...ゔぁ...ぁ゙ぁ...」

「こいつは、生き延びても社会復帰は無理だな。」


さて、お次は左足だ。
左足も右足と同様の作業を行った。やはり脚を引き抜く時が1番厄介だった。
俺は“だるま”にした男を引きずって、壁に寄り掛からせた。
俺は男と目線が合うように、腰を降ろす。


「おっさん。俺はさっきも言った通り止めを刺さねぇー。生きるか死ぬかはおっさん次第って事だ。
仮にもし生き延びたとして、俺を世間に流してみろ...其の時は、手前ェの1番大事なモノを奪いに来てやる。解ったか?」


男は力無く首を立てに振った。
俺は立ち上がると、薄暗い路地裏から抜け出した。
もうそろそろ帰らなければ、ギフトに愚痴を言われる。
俺は家へと足を向かわせた。

帰り道でも人影を見る事は無かった。
今は其の方が好都合なので、ありがたい。
このまま家へ直進だ。帰ったら今日は早めに寝よう。
何せ今日1日で、3人も殺したのだから...流石にゆっくり寝かせてもらいたいものだ。

前方にある電灯の影から、人影が見えた。
俺は一瞬立ち止まって、様子を見た。
電灯の影からディーブより幼いと思われる女の子が出てきた。
手には白いウサギのぬいぐるみが握られている。


「やっと会えた。」


女の子は俺を見つめてそう言った。


「やっと会えたね...“白ウサギ”」


この女の子...確か、『不思議の国』のメンバーだ。
調整局の奴やバーサルト、ナタリアが会った女の子だ。
何故、俺の目の前に...そして何故俺を“白ウサギ”と言う。


「でも、今は白ウサギじゃない。貴方じゃない、白ウサギを出して。黒ウサギは登場人物にいないわ。」

「何言ってんだ、ガキ。さっさと家に帰ってろ。」

「あと、白ウサギだけなの。早く、早く出して...。」


このガキ...俺ではない俺の事を言っているのか。
と言う事はこのガキは俺の、いや俺達の事を知っているのか。となれば狙われているのはケビンかムッシュのどちらかだ。

ムッシュは5年近く外に出ていない、其れに対して『不思議の国』は最近になって現れた殺し屋だ。
ならば答えは...ケビンか...。
ケビンを狙っていたのか、白ウサギはケビンだったのか。


「誰が出すかよ。...生憎、あいつは俺の大事な者なんでね。
...失せろ、ガキ。」


女の子はウサギのぬいぐるみを見つめると、流し目で俺を見た。


「仕方が無いわ...。強行手段ね。」
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