第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
金属の一際甲高い音が鳴り響いた。
其の音は公爵夫人の手から、短剣が弾き飛ばされた音だ。
公爵夫人は宙に舞う短剣を、掴もうと手を伸ばす。
其れを狙ったかの様に、彼は公爵夫人の胴体に、サバイバルナイフを突き立てようと、構えを取った。
私は気付けば部屋から飛び出しており、彼に掴みかかっていた。
自分でも驚いた。
体が勝手に動いたのだ。彼も私の咄嗟の行動に、対応が遅れたのかサバイバルナイフの構えが崩れた。
「スラファッ!!」
「...退け。」
彼は左肘を振り上げると、容赦も無しに私の左米神を打った。
視界がブレ、一瞬目の前が真っ暗になった。
次に見えた光景は、綺麗に絨毯のひかれた廊下の床だった。
何時の間に倒れたのだろうか。
「子供だろうが、犯罪者は殺す。」
彼の瞳にはもはや、正気と言う正義など全くもって無かった。
まるで、犯罪者...。そのものの目だった。
「其の年で罪を犯したのか。憐れだな...。」
「其の子に近付かないでッ!!」
公爵夫人が短剣を手に持つと、彼に切りかかった。
だが、彼は手持ちのサバイバルナイフで、短剣の軌道を変えると素早く溝に拳を入れた。
鈍い音と骨の軋む音が私の耳に入る。
公爵夫人は患部を押さえながら、床にうずくまった。
「これで、助けは来ないな。犯罪者。」
彼はサバイバルナイフを逆手で握ると、私の頭上に刃を翳した。
容赦の欠片もない人...。赦せない過去があったのね。
「死ね...犯罪者。死してなお罪を悔やめ。」
死んでしまうかもしれないと言うのに、私の頭の中は自分でも恐ろしく感じる程冷静で、全てを受け入れているのだと、嫌でも実感した。
あぁ、最期にお母さんとお父さんと幸せに笑って過ごしたかったな...。
「きっと、もう...叶わない事なのね。」
私は自分にしか聞こえない様に、そう呟いた。
瞳を閉じ、彼のサバイバルナイフが己を切り刻む事を待った。
だが如何した事か、一向に身を切り裂かれる痛みが訪れない。
この後に及んで彼の心境が変わるはずもない。
一体如何したと言うのだ。
「おやおや、いけません。其のお嬢さんは殺してはいけないと、言われておりますので...。」
瞳を開けると数cm前まで、サバイバルナイフが差し迫っていた。
彼は怪訝な表情で私を見つめていた。
よくよく彼の手を見れば、赤い線が浮き上がっていた。
其の線から鮮血が滴っている。
彼の奥に黒いセーターに身を包み、サングラスを掛け、白杖(はくじょう)を手にした人が、此方にゆっくり歩み寄っていた。
濃い紫の髪は、恐らく染めたものだろう。
「ラドンさん。確かにキャロル氏は、調整局員である貴方方の護衛を承諾しましたが、殺しを頼んだ覚えはありませんよ。」
「此奴は犯罪者だ。」
「其のお嬢さんと、貴方がすき放題痛め付けた女性はキャロル氏に仕えている者です。決して犯罪者などでありませんよ。」
「...。」
彼が腕の力を抜くと、赤い線は其れ以上深いものには、ならなくなった。
不服そうな表情のまま彼は共にいた彼女の元に向かうと、此方へは戻って来なった。
其の音は公爵夫人の手から、短剣が弾き飛ばされた音だ。
公爵夫人は宙に舞う短剣を、掴もうと手を伸ばす。
其れを狙ったかの様に、彼は公爵夫人の胴体に、サバイバルナイフを突き立てようと、構えを取った。
私は気付けば部屋から飛び出しており、彼に掴みかかっていた。
自分でも驚いた。
体が勝手に動いたのだ。彼も私の咄嗟の行動に、対応が遅れたのかサバイバルナイフの構えが崩れた。
「スラファッ!!」
「...退け。」
彼は左肘を振り上げると、容赦も無しに私の左米神を打った。
視界がブレ、一瞬目の前が真っ暗になった。
次に見えた光景は、綺麗に絨毯のひかれた廊下の床だった。
何時の間に倒れたのだろうか。
「子供だろうが、犯罪者は殺す。」
彼の瞳にはもはや、正気と言う正義など全くもって無かった。
まるで、犯罪者...。そのものの目だった。
「其の年で罪を犯したのか。憐れだな...。」
「其の子に近付かないでッ!!」
公爵夫人が短剣を手に持つと、彼に切りかかった。
だが、彼は手持ちのサバイバルナイフで、短剣の軌道を変えると素早く溝に拳を入れた。
鈍い音と骨の軋む音が私の耳に入る。
公爵夫人は患部を押さえながら、床にうずくまった。
「これで、助けは来ないな。犯罪者。」
彼はサバイバルナイフを逆手で握ると、私の頭上に刃を翳した。
容赦の欠片もない人...。赦せない過去があったのね。
「死ね...犯罪者。死してなお罪を悔やめ。」
死んでしまうかもしれないと言うのに、私の頭の中は自分でも恐ろしく感じる程冷静で、全てを受け入れているのだと、嫌でも実感した。
あぁ、最期にお母さんとお父さんと幸せに笑って過ごしたかったな...。
「きっと、もう...叶わない事なのね。」
私は自分にしか聞こえない様に、そう呟いた。
瞳を閉じ、彼のサバイバルナイフが己を切り刻む事を待った。
だが如何した事か、一向に身を切り裂かれる痛みが訪れない。
この後に及んで彼の心境が変わるはずもない。
一体如何したと言うのだ。
「おやおや、いけません。其のお嬢さんは殺してはいけないと、言われておりますので...。」
瞳を開けると数cm前まで、サバイバルナイフが差し迫っていた。
彼は怪訝な表情で私を見つめていた。
よくよく彼の手を見れば、赤い線が浮き上がっていた。
其の線から鮮血が滴っている。
彼の奥に黒いセーターに身を包み、サングラスを掛け、白杖(はくじょう)を手にした人が、此方にゆっくり歩み寄っていた。
濃い紫の髪は、恐らく染めたものだろう。
「ラドンさん。確かにキャロル氏は、調整局員である貴方方の護衛を承諾しましたが、殺しを頼んだ覚えはありませんよ。」
「此奴は犯罪者だ。」
「其のお嬢さんと、貴方がすき放題痛め付けた女性はキャロル氏に仕えている者です。決して犯罪者などでありませんよ。」
「...。」
彼が腕の力を抜くと、赤い線は其れ以上深いものには、ならなくなった。
不服そうな表情のまま彼は共にいた彼女の元に向かうと、此方へは戻って来なった。