第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
そう言えば、バーサルトの教会で倒れたな。
怪我している本人が、余りに元気だから忘れてたよ。
痛みを感じないってのは、良さそうでそうでもないんだな。


「はっ!?すいません...マスター。」


ファクトが申し訳なさそうにギフトに謝る。


「ごめんなさい、兄さん...♥」


ドールは相も変わらず、ギフトに抱き着く。
“死ね”とでも言いたげな視線で、ファクトはドールを睨み付ける。


「まぁ、痛くないから大丈夫だけどね。
其れより話を戻そうか。」


“痛くないから大丈夫”なわけ無いだろ。
傷口が開いたら、絶対ディーブとナタリアが怒るぞ。

ファクトとドールが席に着くと、ギフトは説明とやらを再開した。


「話を戻すと言っても、もう特に話す事なんか無いんだよね。
“薬”の事は正直僕には関係無いし...。
其れより早く伯爵の屋敷へ行かなきゃ。」

「行ってどーすんだよ。」

「如何するもなにも、バーサルトと約束したじゃないか。」

「そーだったか...?」

「覚えといてよ。」


ギフトが呆れ顔で、俺の顔を見てくる。
忘れてたもんは仕方無いだろ。そんな顔で俺を見るなよ。


「まぁ、行くって言っても準備が必要だからね。」


ギフトはズボンのポケットから、携帯を取り出すと何処かに電話を掛けた。
3回程コールが鳴り、相手が出たようだ。


「やぁ!白ちゃん!!久しぶり~!!」


如何やら電話の相手は白虎のようだ。
何で白虎に電話を掛けたのだろうか。俺には解らないが、ギフトなりの考えがあるのだろう。


「白ちゃん、突然で悪いけど...数時間後に大勢で向かうから、お店開けといてね。」


電話越しで白虎が何か言っている気がしたが、ギフトはお構いなく電話を切った。
切られた電話越しで、白虎が怒ってるだろうな。


「ナタリア、チェル。イルバー通りの廃墟を巡ってくれないかな?」

「何でだよ...。つか、少しは俺の脚の心配しろ。」

「負傷した『不思議の国』のメンバーが、居るはずだからね。」

「...チッ、解った。」

「おお、俺も手伝うよ!!ナタリア!!」


“負傷”と言うキーワードで、ナタリアを動かしたな。
其れに動かされたナタリアもナタリアだが...。

ギフトは予想通り、と言わんばかりに微笑んだ。


「早く行って行って!多分、死にかけが1人位は居ると思うから!」

「解ったから急かすな!!走れねぇーんだからよ!」


ナタリアは大きめの黒い革製の鞄を手に持つと、心無しか足早に玄関から出て行った。
チェルも慌てて其の後に続く。
何だかんだ言って、ナタリアは心配しているんだろう。根は普通の良い人柄だからな。
口は悪いが...。

続いてギフトはディーブに視線を向けた。


「ディーブ。1人で“妖狐”まで行けるかい?」

「...多分。」

「よし、なら先に“妖狐”に向かってくれないかい。ついでに白ちゃんに、僕達は後で来るって事も、言ってくれる?」

「うん...。」


そう言ってギフトは、ディーブとの会話を終わらせると、ディーブに準備をする様言い聞かせた。

最後にギフトは、残った俺とドールとファクトの顔を見回した。


「僕を含めて、この4人は前衛だ。言ってる意味が解るかい?」


其の言葉の意味は、今までの説明で1番解り易かった。


「暴れりゃ良いんだろ?楽勝だって。」

「セルリアは切り込み隊長だからね。それなりに期待してるよ。」


ギフトが金色の瞳を輝かせて、俺の瞳を覗き込んだ。
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