第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
ドールとファクトが、慌てて俺の後に続いた。
何も焦る必要は無いだろ。別に其れで、死んでしまう訳ではないのだから。


「ボクも兄さんの言う通り動くもん!!」

「私もですッ!!」


互いに言い終えた後、睨み合った。
仲が良いのか、悪いのか...。
性根が似てる奴ほど、仲が悪いと言うが、これは本当かもしれない。

俺は...ベラージュがそうだったのかもしれない。
もうよく覚えていないけど。
なにせ、俺が死んだのは、もう10年も前の出来事なのだ。
其れ以上前の出来事など、薄れてしまうのが現実だ。


「さぁ!!武器を手に乗り込もうじゃないかッ!!今日は暗殺だ!!!」


この29歳は、もう少し落ち着きを知った方が良いと思う。
何時まで経ってもそこらで遊んでいる子供と、なんら変わらない。小学校からやり直した方が良いのではないか。
そんな気にさえさせる。
これでも一応殺し屋『Sicario』のリーダーなんだけど...。










数十分後...
ディーブも家を出て“妖狐”に向かった。
俺はヒートテックやセーターを着替えて、ケビンから貰ったお気に入りのナイフと、机の上にあった手入れの行き届いたサバイバルナイフを、コートに仕込んだ。

ドールはコートを着ているが、特に目立った武器は見えない。恐らく素手で殺るんだろう。末恐ろしい奴だ。

ファクトは先程まで着ていたスーツではなく、黒い厚手の上着に黒いズボン、といった至ってシンプルな服装に身を包んでいた。
上着の胸元が少し膨らんで見える。あれは胸ではなくて、銃だろ。多分な。

ギフトは普段と至って変わらない。が、コートのポケットが少々膨らんでいる。何か解らないが、きっと武器の一種だろ。

ギフトが先立って玄関から、家を出た。
生き生きと歩んで行く事は、構わないが目的地が何処なのか知っているのだろうか。
頭は良いが、思い付きが多いのがギフトだからな。


「さぁて、行っちゃおっか。」

「マスター。キャロル氏の屋敷を知っているのですか?」


ファクトが俺と同じ疑問を、ギフトに尋ねた。
ギフトは当然と言わんばかりに、胸を張ると金色の瞳を細めた。
この表情...知ってるな。


「うん、知ってるよ。以前から注視していた貴族だしね。此処から貴族街まで、特別遠くもないし早く行こうよ。」

「流石兄さん♥何当然な事聞いてんの?ファクト...」


何時も通りドールを無視するギフト。
ファクトは眉間に皺を寄せて、鋭い眼光をドールに浴びせる。
完全に頭の中、殺す事しか入っていないな。ギフトの奴...。
何時も通り歪みの無い笑顔で返答すると、子供の様に「早く早く」と愚ぜった。
一体誰が最年長なんだか。
思わず溜息が漏れそうになった。

俺達4人はギフトを先頭に、目的地であるルイス・キャロルの屋敷へ向かった。

先程から全くと言っていい程、ケビンの意識を感じない。
そんなに疲れていたのだろうか。
心配だ。
早く回復する事を願うしか、今は出立てがないか...。
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