第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
貴族街までは、少し電車を乗り継いで向かった。
現在、俺達が立っているこの場所は、貴族街の1つ。
イマジフィアーバ街だ。初めて来る貴族街だ。そもそも貴族街自体、基本立ち寄らない場所だ。
一般街とは比にならない程、綺麗で美しい場所だ。貴族街とはよく言ったものだ。

ギフトは楽しそうな表情だが、無言で先へ進んだ。置いて行かれない様にと、俺とドールとファクトは其の後ろを付いて行く。

貴族街も意外と一般街と同様に、入り組んだ構造をしていた。
心無しか一般街よりも、複雑な気がしてならない。
これは道を覚えるだけでも、一苦労しそうだ。

そんな呆気に取られていると、ギフトが1つの屋敷の前で立ち止まった。
恐らくこの屋敷がルイス・キャロルの物なのだろう。
大きな玄関には鉄製の柵が施されている。
其の中には広大な庭や、絵本にでも出てきそうな噴水なども設置してある。
貴族と言うものは、こんな物に金を賭けるのか。
貧民街出身の俺には、理解し難い光景だった。


「さぁ!!3人共いよいよだよ!!」


俺とドールとファクトを振り返って、ギフトは両手を広げながら高らかにそう言った。


「1つだけ約束してね。」


ギフトは右手の人差し指を立て、微笑んだ。


「『不思議の国』は殺さず、逆に助け保護する事。」

「はぁ!?何でだよ!!?」

「セルリア、何兄さんに言いかかってんの?」

「ドール、少し黙ってろ。
まぁ、簡単に言うと『不思議の国』は殺すよりも、良い方法があるからだよ。今説明するよりも、後からの方が良いから、取り敢えずそこは頼んだよ。」


ギフトは一方的に会話を終わらせると、端の方にある小さなインターホンへと向かった。
コートのポケットから、何かの機械を取り出すと、インターホンと繋いで、いじり始めた。

ギフトの一連の行動に、疑問しか浮き出てこない俺に相反し、ファクトは全てを理解した様で、逆に活き込んでいた。
ドールは言うまでもなく、全てを受け入れている。

暫くしてギフトが何かを終えると、普通に鉄の柵を開いた。


「おい!?普通に開けたら警備の奴等が来るだろ!!!」

「大丈夫だって、この屋敷のセキュリティは全部解除したから。」

「流石です!!マスター!!!少しは考えて発言して下さい。」


ドールはギフトの命令で喋らないが、代わりにファクトが俺に文句を言う。
何で発言しただけで、俺がどうこう言われなければならないんだ。


「言い合ってないで、早く行こうよ。本当、2人は仲が良いよね。」

「違いますッ!!断じて違いますッ!!!」


「アハハ」と笑いながら、ギフトは先へ進んで行く。
ずっと黙っているドールと、俺に死ねと訴える視線を向けるファクトと共に、屋敷へ堂々と侵入した。
もはや、侵入とはほどお遠く離れているが...。
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