第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
よし、これで1本腕が増えたな。
モガルのサングラスと白杖を取り彼に渡した。


「さぁ、行こう。今日はまだ始まったばかりだ。」


きっと僕は凄く愉快な顔をしているに違いない。





side:セルリア
ガキと公爵夫人を引き連れ、俺とドールは同じ様な風景が続く屋敷内を歩いていた。
歩いてるなんて悠長だなと思われそうだが、特別急ぐ内容ではないし根本的に屋敷内の構造を知らない。
走ったって今と何1つ変わらないし、むしろ無駄に貴重な体力が失われるだけだ。

敵が襲ってくるわけでもなく、屋敷が爆発するとかそんな事もなく。
伯爵ってのは何考えてんだが...。
死んでるって言う可能性もなくはないか。

不意にガキが俺のコートの袖を引っ張った。


「何だよ。」

「...あ、あの...地下室。」


地下室だけじゃ解んねぇーから。


「地下室が何だよ?はっきり言いやがれ。」

「ごめんなさい...。」


怯えているのか、ガキはぼそぼそと謝罪の言葉を述べた。
謝る場面ではなかっただろ。
やっぱり俺って顔怖いのか...以前の依頼でも怖がられたしな。

公爵夫人がガキの隣に並んで俺に睨みをきかせる。
顔の下半分がレースで隠されているが、見えている部分は割りと美人だ。
素顔を見られないようにしているのだろうか。


「アリスを泣かせないで下さい。」

「泣いてねぇーだろ。つか苦手なんだよ...ガキってのは。」


ガキから視線を逸らして言う。
正直如何接するのか皆目検討がつかないのだ。
〝あいつ〟ならまだしも、会ったばかりのガキに何しろってんだ。

ドールがガキと公爵夫人とは反対側について、口元を手で隠しニタニタと笑っている。


「セルリア~女の子泣かせるの好きだね~。もしかしてそういう趣味?」

「違ぇーよ。誤解招く言い方辞めろ。」


そんな趣味あるわけないだろ。
前言撤回だ。早く終わらせて帰ろう。
こんな奴と1秒でも長くいる事が不愉快だ。


「で、ガキ。地下室が如何した?」

「ガキではありません。アリスです。」

「良いの、公爵夫人...。」


ガキが公爵夫人を宥める。
不機嫌な表情だが公爵夫人は言葉を飲んだ。
ガキが俺に視線を戻す。


「地下室に居ると思うの。白ウサギが...。」

「白ウサギ...。ケビンの事じゃなかったのかよ。」


あの夜出会った時はケビンをそう呼んでいたはずだ。俺の記憶が正しければ...。


「あれは...、『Sicario』に助けを乞うため。『不思議の国』だけでは太刀打ち出来ないもの。」

「其れでもお嬢ちゃん達は立ち向かったよね~。勝算があったの?」


ドールが悪戯を含んでガキに問いた。
ニタニタと特有の金色を細めて。


「...信じてたから。」


顔を伏せつつもガキは確かにそう言った。
ドールは少し気に食わなかったのか笑うのを止め、途端にすました顔になった。


「殺し屋に信じるねぇ。
信じる信じないじゃないよ。兄さんが興味を持つか持たないか、唯其れだけ。
良かったね。お嬢ちゃん達は興味を持ってもらえたんだから。兄さんに感謝すべきだよ。」

「感謝してるよ...。だから生きているもの。」


ドールは調子を狂わされたのか言い返す事は無かった。
そもそも何がしたかったんだ。お前は。
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