第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
side:ギフト
セルリアとディーブにあの面倒臭い奴らを任せると、僕は足早に教会へ向かった。
結構近くまで来ていたので、直ぐに辿り着く事が出来た。
ノーリスト街の教会だけあって、かなり古い。教会を囲んでいる壁もひびが入り、一部は崩れ落ちている。
僕は特製のネイルハンマーを片手に、ゆっくりと教会の中へ入って行った。
教会の中も外と同様に、様々なところにガタがきており、数年単位で誰も使っていない事が、嫌でも解った。
中央に道があり、そのサイドには形だけの木製の長椅子がある。
月明かりの差し込む祭壇に、人影が見える。
「嬉しいです...。殺してくれるのでしょう。」
今回の依頼人____ジュラル・ミルだ。
最初に会っ時とは違って、随分とラフな格好をしている。
僕は得意の笑顔でジュラル・ミルに笑いかける。
そして、彼に特製のネイルハンマーを向けた。
「もうお芝居は終わりにしようじゃないか。ジュラル・ミル...いや、フィーラ・タラガスト。」
「な、何訳の解らない事を、」
「君の言い訳なんか聞きたくなし、そんなもの糞の役にも立ちはしない。最近のあの施設は、演技まで教えてくれるのかい?本当...迫真の演技だったよ。」
ジュラル・ミルもといフィーラ・タラガストの表情が無くなった。
無表情尚且つ冷たい眼差し。ビンゴ...予想通りだ。
フィーラ・タラガストは両手で自身の顔を覆った。洗顔する時のように顔を数回擦ると、両手を離した。
其処にはジュラル・ミルの顔ではなく、今日夕方家にあげた女性の顔があった。
「無表情で悪いけど僕が君に行き着いた考察を聞いてくれよ。」
「勝手にすれば...?」
「わぉ!挑戦的~。別にいいけど。
決定的な事を言っておこう。と言うかこれしか無いんだけどね。焦らすのもアレだから言っちゃうけど...臭いだ。君の臭い。
僕に臭覚が残っていて幸いだったよ。
ジュラル・ミルと夕べの女性...僕の注意が散漫だった事が原因だけど、よくよく思い出してみれば同じ事に気付いたんだ。
少しきつめの香水。ジュラル・ミルの時は緊張を隠す為と思っていた。
女性の時は単純に女性だから。気に掛けもしなかった。
でも繋げてみたら君に辿り着いた!!素晴らしい!!素晴らしい事だッ!!!」
「そうね...素晴らしい事ね。だって貴方を殺せるんですもの。」
「良いね良いね!!君は正体がバレる事を前提にした。身を呈(てい)しているんだ!!」
こんなに心躍る事があるか。いや、無いね。
素晴らしい、何を君が其処までするんだ。
自分を犠牲に出来るんだ。
人間らしい...実に人間らしい。馬鹿みたいに人間らしくて、くだらなくて、阿呆らしくて、愚かで、何が君を人間たらしめるんだ。
いや違う...僕が“ヒト”じゃないんだった。
うっかり。
セルリアとディーブにあの面倒臭い奴らを任せると、僕は足早に教会へ向かった。
結構近くまで来ていたので、直ぐに辿り着く事が出来た。
ノーリスト街の教会だけあって、かなり古い。教会を囲んでいる壁もひびが入り、一部は崩れ落ちている。
僕は特製のネイルハンマーを片手に、ゆっくりと教会の中へ入って行った。
教会の中も外と同様に、様々なところにガタがきており、数年単位で誰も使っていない事が、嫌でも解った。
中央に道があり、そのサイドには形だけの木製の長椅子がある。
月明かりの差し込む祭壇に、人影が見える。
「嬉しいです...。殺してくれるのでしょう。」
今回の依頼人____ジュラル・ミルだ。
最初に会っ時とは違って、随分とラフな格好をしている。
僕は得意の笑顔でジュラル・ミルに笑いかける。
そして、彼に特製のネイルハンマーを向けた。
「もうお芝居は終わりにしようじゃないか。ジュラル・ミル...いや、フィーラ・タラガスト。」
「な、何訳の解らない事を、」
「君の言い訳なんか聞きたくなし、そんなもの糞の役にも立ちはしない。最近のあの施設は、演技まで教えてくれるのかい?本当...迫真の演技だったよ。」
ジュラル・ミルもといフィーラ・タラガストの表情が無くなった。
無表情尚且つ冷たい眼差し。ビンゴ...予想通りだ。
フィーラ・タラガストは両手で自身の顔を覆った。洗顔する時のように顔を数回擦ると、両手を離した。
其処にはジュラル・ミルの顔ではなく、今日夕方家にあげた女性の顔があった。
「無表情で悪いけど僕が君に行き着いた考察を聞いてくれよ。」
「勝手にすれば...?」
「わぉ!挑戦的~。別にいいけど。
決定的な事を言っておこう。と言うかこれしか無いんだけどね。焦らすのもアレだから言っちゃうけど...臭いだ。君の臭い。
僕に臭覚が残っていて幸いだったよ。
ジュラル・ミルと夕べの女性...僕の注意が散漫だった事が原因だけど、よくよく思い出してみれば同じ事に気付いたんだ。
少しきつめの香水。ジュラル・ミルの時は緊張を隠す為と思っていた。
女性の時は単純に女性だから。気に掛けもしなかった。
でも繋げてみたら君に辿り着いた!!素晴らしい!!素晴らしい事だッ!!!」
「そうね...素晴らしい事ね。だって貴方を殺せるんですもの。」
「良いね良いね!!君は正体がバレる事を前提にした。身を呈(てい)しているんだ!!」
こんなに心躍る事があるか。いや、無いね。
素晴らしい、何を君が其処までするんだ。
自分を犠牲に出来るんだ。
人間らしい...実に人間らしい。馬鹿みたいに人間らしくて、くだらなくて、阿呆らしくて、愚かで、何が君を人間たらしめるんだ。
いや違う...僕が“ヒト”じゃないんだった。
うっかり。