第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
「君とは詳しく話したいところだが...簡潔に話そう。何故今頃になって僕らの目の前に現れたんだ?」


フィーラ・タラガストは無表情のまま問いに答える。


「世間にお前達のことが知れたら、此方に良くないからよ。」


簡潔で簡単で実にシンプルな答えだ。
だが、嘘だ。


「...アハハハハ!!今頃になってかい!?いやぁ、これは面白い。10年もたった今にかい!?懐かしいね...確か研究材料も全部破棄したっけ?やっぱりお怒りだったのか!」

「黙れ。」


彼女が強く銃を握りしめる音が聞こえた。
怒る事など何1つ無い筈だろう。可笑しな奴だな。


「良いじゃないか。どうせ君が単独で来たんだろう。」

「なぜッ...!?」


これも当たりか。単純な人間で結構、結構。


「何故って考えれば解る事さ。あの施設なら君みたいなの1人で寄越す筈が無い。
あ、後疑問に思ってたんだ。何故あの時殺さなかった?」

「...様子見に決まってるでしょ。」


嘘だ。何だ、まだ人間らしい心が残っているのか。


「嘘だね!!君は人を殺す事を躊躇していたんだッ!!殺した事無いんだろ!?其れ共“まだ”抵抗があるのかい?あの施設で最も楽しい事だろ!?」

「...化け物め。」


軽蔑の言葉だ。僕にとっては一種の褒め言葉だけど。
嗚呼楽しい、楽しいな。楽しいけど...其の凛とした瞳で見られると、興奮するじゃないか。平常心だ、今は我慢我慢。


「よく言われる。嫌ってないよ、寧ろ気に入っている。似合ってるだろ、僕に。
で...、そんな弱虫は決心がついたから今僕に殺意を向けているのかい?」


眉間に皺を寄せながらフィーラ・タラガストは見つめる。
眉間に皺を寄せたという事は、不服な行為を僕がしてしまったと言う事だ。唯話をしただけじゃないか。容量の小さいこと...。

今更あの施設など興味の微塵も無い。僕の邪魔をするというのなら、叩きのめすだけだ。
僕の邪魔になるものは、どうやってでも排除する。


「当たり前だ。私はあの方を裏切ったお前を許さない。」


おや、最近は洗脳までやっているのか。僕達の事を教訓にしたな。
あ、そう言えば...


「何で本名と掛け離れたジュラル・ミルなんて名前を使ったんだい?」

「...言う必要は無いわ。」


言わなくても表情で大方予想が付いたよ。あの施設で恋でもしたのかな。
若いって良いね。

まぁ、其の相手は死んだようだけど...。


「いや〜ありがとう。楽しい話が出来たよ。」

「私はそうではなかったけれどね。」


彼女は何処から出したのか、二丁銃を手にしていた。
しまった...僕は遠距離攻撃は出来ないんだった。
対策を考えている間に、彼女の銃が火を放った。
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