第1巻 Sicario ～哀しみに囚われた殺人鬼達～

恋人と共に____

ハロー、日常

大通りを数多の人が歩いて行く。
秋口のこの頃になると、皆一斉に厚着になっていく。
嗚呼、また寒いあの季節がやって来るのだなと、嫌でも思わせられる。

仕事の依頼が無い俺は、暖かい室内の中でただぼんやりと外を眺めていた。
ほかの奴らも俺と同様に暇なのか、何もすること無く静かにしている。何時もこのくらい静かならどれ程良いだろうかと、この静けさをしみじみと噛み締めた。
だがそんな安らぎも束の間、椅子に座っていたギフトが痺れを切らして愚痴を言う。


｢暇過ぎるんだけどｯ!!!何で依頼が来ないのさｯ!!?｣


ギフトは何故か俺の方を向いて怒鳴った。
俺に言われても困るのだが…。まぁ、偶然俺が視界に入ったのが運の尽きというものだ。


｢んな事俺が知るわけねぇーだろ。俺だって暇で仕方ねぇーんだよ。｣


俺の言葉なんかこれっぽっちも入っていないのか椅子から立ち上がってギフトは熱弁し始めた。


｢嗚呼、誰か依頼しに来ないのｯ!?僕は今、猛烈に殺したいんだよ!欲求不満なんだ!!だから、イラついてるんだ!僕のこの気持ちが解るかい!?｣


半ばヒステリックにギフトは言った。
ほぼ八つ当たりじゃないか…。
少し離れたソファーに横になっていたディーブが眉間に皺を寄せて此方に視線を向けた。見るからに不機嫌丸出しだ。


｢……五月蝿い。｣

｢悪ぃなディーブ。｣


一言謝罪を述べると、ディーブはまたソファーに横になった。
ディーブの一言で取り敢えず静かになったギフトだが、欲求不満の表れか膝を揺すっている。
最年長なのだから少しは我慢という事をしてもらいたいのもだ。

そんな中玄関のベルが2回ほど鳴らされた。外に出かけて行ったドールのものかと思ったが、あいつがそんな事する奴では無いという事を思い出した。
とすれば、ベルを鳴らした人物はここの住人ではない事が明白になる。

ベルが鳴ったのと同時に先程まで苛立っていたギフトの金色の瞳が輝き出した。勢い良く椅子から立ち上がると、鼻歌交じりの軽い足取りで玄関に向かって行った。
ギフトが笑顔で玄関を開けると、そこには少し身なりのいい、軟弱そうな男性が立っていた。