第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
マロンを仰向けにして、抱きかかえる。
微かに胸が上下に動いているのが、確認出来た。
両手には大事そうにPCが抱かれている。
俺の中の不安と焦り、恐怖が少しずつ消えていくのが解った。


「マロン。おい、マロン。」


体を揺すって名前を呼んだ。
マロンの眉が少し歪んで、ゆっくりと瞼が開かれた。
俺を認識することができたのか、小さく俺の名前を呟いた。
マロンも安心したのか、大きく綺麗な瞳に涙をうかべた。


「...キース...せ、先パイ。あたし、マジで...怖かったんスよ。」

「あぁ。」


涙が頬を伝い始めた。堰が切れたかのように、マロンは俺の腕の中で泣き始めた。
声を出さぬように、肩を震わせて泣いた。

犯罪者とは言え、相棒とは言え...こいつは女だ。
やはり守ってやらなければ、いけない存在というわけなのか。


「ウゥ...せ、先パイ。ほ...星は、?」

「逃げられた。」


マロンは涙で汚れた顔を手で拭うと、俺に謝ってきた。
何故謝ってきたのか理解出来ずに、俺は言葉が出なかった。


「あたしが、不甲斐なかった...っスから...。」


俺はマロンの頭を撫でた。
不思議そうにマロンは俺を見つめる。


「お前の所為では無い。俺の力不足でもある。だから、...泣くな。」

「先パイ、そういうのは...可愛い女の子に言うもんっスよ。」


涙でぐちゃぐちゃな顔で、マロンは綺麗に笑った。
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