イケメン同期に素顔を見抜かれました
「そろそろ、名前で呼んでほしいなー、とかそういうのも言わずに我慢してる」
「そ、それは。会社で呼んじゃって、周りにバレたら困るし」
「別にうちの会社、男女交際禁止じゃないし、俺はバレても平気だけど?」
「私がイヤなの!」
「だから、その芽衣の気持ちを考えて付き合ってることは秘密にしてるだろ?」
「そこは、ありがたいと思っているけど」
交際を始めた当初、ふたりの関係は周りには言わないでおこうと提案したのは芽衣だ。
櫂は少しだけ不満そうだったが、最終的には芽衣の気持ちを優先してくれて、1年たった今も、ふたりの関係は公にはしていない。
「付き合って1年、彼女に名前も呼んでもらえないのは少しだけ寂しいんだよなぁ」
「…………」
「ベッドの上では可愛く『櫂』って呼んでくれるのに」
「なっ……!!」
顔を真っ赤にする芽衣を見て、櫂は満足そうに微笑む。
「だから、慎吾さんのことを『慎くん』って親しげに呼んでた芽衣に、ちょっとヤキモチ妬いてたんだよ、俺」
「気づかなくてごめん」
「いいよ、別に。結局俺は、どんな芽衣でも好きだからさ」
ポンポン。
櫂の大きな手が、頭を撫でる。
「芽衣、ここでいいよ。あとは駅から電車乗って帰れるから」
「うん」
「もし休み中、時間が取れることがあったら連絡して」
「わかった」
満足そうに微笑み、櫂が右手を挙げて歩き出す。
「……櫂っ!」
歩き出して数秒。
後ろから響いた自分の名前に、勢いよく振り返る。
「今日はありがと。またね!」
「……ああ、またな!」
もう一度前を向き、駅に向かって歩く櫂の心は、嬉しさでいっぱいだ。
中々素直になってくれない彼女が、少しだけ素直になってくれた。
これから先、どんなことがあってもきっと大丈夫。
芽衣の時々出してくれる素直な気持ちが、きっと自分を強くしてくれるはずだから。
今年も1年、芽衣とふたり仲良く幸せな1年になりますように。
【2016.1.1エピソード2】