イジワル上司に恋をして(ミルククラウン)【番外編】
「驚くとは予想してたけどな」
「そっ、そりゃあ……! それにヘルプは?! 『悪い』って言われたし!」

さっき玄関で言いたかったことをやっと言えた。

そうだよ。誰だって今日の帰り際にあんなふうに言われたら油断もするでしょう?!
しかも相手はこの〝読めない男〟……いや、それもあるけど、わたしがニブイんだってよく言い返されたりもするけど……いやいや。それは今置いておいて。

この至近距離の緊張をごまかすように脳内では忙しなく独り言を並べたてる。
でも、それすらも見透かすような切れ長の目を優哉は向け続ける。

そして突然、薄い唇が僅かに開いた。

「……会いたかったから」

…………正夢?
ヤツの口からそんな言葉が零れ落ちてくるなんて――。

これ……まだ、夢の続きなんじゃ……。

ぽかんとしたわたしの視線に耐えられなくなったのか、優哉は一度その態勢のまま、ふいっと顔を横に逸らす。
少し考えたようにしたあと、こっちに向けた顔は、もういつもの余裕顔。

スッと耳の上から大きな手を差し入れられて、ピクン、と体が反応してしまう。
そしてそのまま、まだ冷たい唇を重ねられた。

わたしの熱を奪うように、何度も何度も少し離れては徐々に深くなっていくキス。
力んでいたはずなのに、その心地よさに力が緩む。
そのタイミングが来るのを知っていたかのように、焦ることなく優哉の舌がわたしの中に侵入する。

「……はぁっ、んん……」

ゆっくりゆっくり味わうように。
いつの間にか、わたしの熱を分け与えられたのか、優哉の唇も冷たくなくなって。
わたしたちは同じ体温になっていく。

それを感じていると、最後に唇を食まれるようにされて、優哉の唇は離れていった。

「ちょ、ちょっと……待って!!」

この流れ……絶対やばい! このままこの先も――。

優哉と初めてなわけじゃない。
でも未だになれないそれは、まるで初体験かのようにわたしを緊張で襲う。

しかも……。

「わ、わたしっ。本当に帰って来てなんにもしてなくて……!」

お風呂にも入ってないんだってば!!
女子としてこのままなだれ込まれたら……どうなの? いいの? いや、よくないでしょ!

必死に時間を稼ごうとして懇願するように優哉を仰ぎ見る。

「つ、疲れてるでしょ? あ、おなかも空いてたり? ほら、ちょっとやっぱ一回落ち着いてから……」
「うるせぇな。往生際が悪い。黙ってオレに喰われろ」
「ん、ぅ!」

そうしてわたしの抵抗も虚しく……。

……でも、心の底ではうれしく感じる自分がいたことも本当だったけど。
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