イジワル上司に恋をして(ミルククラウン)【番外編】
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「……もう。アンタが会社でわざわざ残業だって言いにくるし。絶対こんなことありえないって思ったから、ケーキもなんにも用意してないよ……。ひとりきりのイブだと思ってたから!」

まぁでも、コイツとわたしの甘い妄想通りなクリスマスデートなんて想像できなかったけど。
それでも『もしかして』という期待はほんの少しあったから……。

わたしのあとにシャワーを浴びてきた優哉にバレないように、テーブルの下にこっそりと小さな黒い紙袋を押し込みながら文句を言った。

すると、頭をゴシゴシと拭く手を止めてヤツが言う。

「あー忘れてた。ケーキ玄関に置きっぱなしだな」
「え!」

視線だけで指した方向には、ヤツは自分でいこうとしない。
自然とわたしが立ち上がって玄関にパタパタと向かうと、確かに白い箱が置かれていた。

「ほんとだ」
「嘘だと思ってたワケ?」
「えっ! そういうワケじゃ」

首からタオルをぶら下げて、まだ少し前髪から雫を滴らせる優哉がわたしの元へと近づいてくる。
白い箱を落とさぬように両手で持つと、ヤツは耳元に唇を寄せて囁くように言った。

「コーヒー淹れて」

ぞくりとする感覚に思わずケーキを落としそうになる。
その慌てっぷりを見て、性格悪男はくすりと嫌味ったらしく笑った。
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