不機嫌な君
人事部長の悲鳴にやっと我に返った私は一歩後退した。
…すると、誰かにぶつかったのが分かった。

上を見上げると、超不機嫌な顔の金崎部長がいて、片手は人事部長の手を捻り上げ、片手は書類も持ち、尚且つ私をホールドしている。

振り返った人事部長の顔はみるみる青くなる。
「渡し忘れた書類があって持って来たんですが・・・
うちの部下に一体何をされるおつもりでしたか、人事部長?」

・・・その声は低く、それでいてドスの利いてる声。
誰が聞いても分かるほど、本気で怒っている声だった。


「・・・いや、これは、その・・・」
人事部長はシドロモドロで、弁解を始めようとした…が。

「私は、セクハラをする男が一番嫌いです。・・・今後の処分を待たれた方がいい」
「金崎君!」

「…行くぞ、島谷」
その言葉に小さく頷き、金崎部長の後ろをついて行く。

…人事部長がうな垂れたのが見えたが、自業自得だと見て見ぬフリをした。

廊下の角を曲がった途端、金崎部長が足を止めた。

「あれだけ俺に好き勝手言ってるお前が、あの場で何で反論・・・おい?」
説教しようと振り返った金崎部長は目を見開いた。

…あの場から何事もなく逃げられた安堵感から、一気に力抜け、その場に座り込み、あろうことかすすり泣いていた。
そんな私を戸惑いながらも立ち上がらせ、心配そうな顔で金崎部長は問いかけた。

「なんか酷い事されたのか?」
その言葉に首を振る。

「なんか言われたのか?」
またしても首を振る。

結局泣いてる理由が分からない金崎部長が取った行動は・・・
私をただただ驚かせるものだった。

「・・・金崎、部長。・・・何、して?」
「お前が泣いてるから…どうしていいかわからなくて」
そう言いながら、私を抱きしめる腕に力を込める。
< 18 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop