不機嫌な君
アパートに着き、部屋のドアの鍵を開けて中に入った。

「…金崎部長?」
…金崎部長の革靴が綺麗に置かれていた。

私はその靴の主を探す為、声をかけた。
…が、その人の声はしない。

具合が悪く寝ているんだろう。そう思い、静かに中に入った。…そのまま寝室に向かいドアを開けると、ベッドの上で、ゴソゴソと何かが動いた。

私は相変わらず静かにそこに近寄ると、ベッドの中を覗き込んだ。

するとそこには、金崎部長が静かな寝息を立てていた。

…無防備なその顔に自然と笑みがこぼれる。…会社では全然見せないであろうその顔に胸がホッコリした。

『お願い…右近を返して…私には、右近しかいないの』

その言葉が頭をよぎった。

「…泣いてるのか?」
「…」
…いつの間に泣いていたのか。その涙を拭い、心配そうな顔で金崎部長が私を見ていた。
< 82 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop