不機嫌な君
「別れません」
「…私の聞き違いかな?」

穏やかな顔のまま、社長が私に問いかける。
…ここで負けるわけにはいかない。

…私は、金崎部長からこの指輪を貰ったんだから。

「私は金崎部長と・・・金崎右近さんと別れるつもりはありません」

毅然とした態度で言い放った。
…本当は凄く怖かった。この後、何を言われるのか。

「…困ったお嬢さんだね」
「・・・」

「君は右近の未来を潰すつもりか?」
「…潰すつもりなんてありません。・・・私には何もありません。ごくごく普通の家庭でその辺にいる人と何も変わらない。ですが、金崎部長を心から好きだって言えます」


「…戯言だね」
「・・・」

「愛情だけで、会社が成り立つと思うのかな、君は?」
「・・・」

「会社を経営すると言う事は、そんなに簡単な事じゃないんだよ。右近の妻になると言う事は、共にこの会社を切り盛りしていくパートナーになると言う事なんだよ。君にそんな大それたことが出来るか?」

・・・その言葉に、返す言葉が見つからない。私は、金崎部長が好き、愛してる。でも・・・金崎部長のパートナーなんて、務まるはずはなかった。

「優姫が、君に会ったと言っていた・・・優姫はああ見えても、会社経営のノウハウは心得てる。右近の右手にも慣れる存在だ。妻としても、最高に人になってくれる子だよ。君が諦めさえしてくれれば、右近の将来は約束されるんだ。…分かってくれ」

「・・・?!」
社長に頭を下げてもらいたいわけじゃない。私はただ、金崎部長との関係を認めてもらいたいだけなのに。…それは無理な事なのかもしれない。

「今すぐ別れてくれなくてもいい。右近が社長に就任するまでに別れてくれれば、それでいいから」

「・・・ッ」
私は胸が締め付けられた。そしてそのまま社長室を後にした。
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