ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「もちろん覚えているよ。

君の処女作には………『幻月の庭』だったかね、あれにはたいそう感動したからね」




「そんな、滅相もございません。

僕のほうこそ、いつも嶋田先生の作品を読ませていただいて、お勉強させていただいていますから。


特に印象深かったのは、『イカロスの反逆』の冒頭部分の風景描写ですね。

それに、『雨に濡れた楽園』の構成も、これまでにない………」




朝比奈先生はそう言って、嶋田先生のベストセラーになった代表作をいくつかと、かなりマニアックな作品を多数あげた。


しかも、ご丁寧に感想まで添えて。




朝比奈先生の志向とはだいぶ異なるはずの嶋田泰司の作品をそこまで読み込んでいるらしいことに、私は驚く。



そういえば朝比奈先生のマンションの部屋には、大量の本が散乱していた。


あれを全部読んでいるのだ。



朝比奈先生は作家としては怠け者だけど、読者としてはかなり熱心なのかもしれない。




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