ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
彼女は、鮮やかとしか言いようがないほどばっさりと男を捨て、ばたばたと去っていく彼の背中を冷たい目で見送ってから、マスターにカクテルを頼んだ。



どうせ振られるのなら、あれくらいきっぱりすっぱり切り捨てられたほうが、男のほうも未練を抱かずに済むってものだ。



うわべだけの優しさが、相手を傷つけることもあるのだと、彼女は知っているに違いない。




「ジャック・ローズ」と言う名の、美しい薔薇色のカクテルを一口飲んで、彼女はそれはそれは満足そうに、うっとりと妖艶に微笑んだ。



100万年の氷河も溶けてしまいそうなほど綺麗な笑みだった。




男を振った直後に、それほどまでに悠々と微笑む女を、俺は知らない。


あまりの衝撃に見惚れていると、ミナちゃんから思い切り殴られてしまった。



そこで俺は、大好きな恋人に振られかけているのを思い出し、いかんいかんと気を引き締めたのだけれど、時すでに遅し。



愛しのミナちゃんは、俺を置いて店を飛び出してしまったのだった。





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