ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
じゃがいもの皮を剥き、大きめに切ってザルに入れていく。


にんじんと玉ねぎも同じように下ごしらえをする。



糸こんにゃくを洗って、深めの鍋をとりだした。




そのとき、リビングにいた先生が、いつの間にか後ろに立っている気配に気がついた。




「先生? どうかしまし……きゃ!」




振り向きかけたところで、いきなり背後から抱きしめられて、私は思わず小さく叫んでしまった。


背中を包み込む体温に、不覚にもどきりとしてしまう。




「ちょっと……なにするんですか」




戸惑いをごまかすように、咎めるような口調で言うと、

先生が後ろから覗き込むように首を傾げてきた。



先生の顎がこめかみのあたりに触れて、なんだかくすぐったい。




「いやあ、料理してる女の子の後ろ姿って、いいよねえ。

我慢できなくなって、抱きついちゃうくらいに」



「………なに言ってるんですか。

作業がしづらいので、離れててください」



「はあい」




先生はくすくすと笑い、ぱっと身体を離した。


急に背中が寒くなったような気がした。




< 155 / 286 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop