ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「………君が」




囁きかけるような声がして、私ははっと我に返る。



ちらりと目をあげて先生を見ると、予想に反して、ひどく優しい、まるで私を愛おしむような目をしていた。




「君が、心から俺とそうしたいって思うときまで、君には触れないことにする」



「………え?」




先生の言葉がすぐには入ってこなくて、私は眉根を寄せて首を傾げる。



すると先生が、ふっと笑った。




「その顔、かわいいなあ。

キスしちゃいたくなるな」



「な……っ」



「でも、しない。

君が俺とキスしたいって思ってくれるまで、もうしない」



「…………」




どういうこと?


私の聞き間違いじゃなければ………

かわいい、って言ったの?


私のことを?



にわかには信じがたくて、私はどう返せばいいのか分からない。



押し黙っていると、リビングに静寂が流れた。




「………さて、片付けでもしようかな」




先生は何事もなかったかのように立ち上がり、テーブルの上の食器を重ね始めた。




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