ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「いや、香月に力があるのは周知の事実だが………さすがのお前でも、やっぱり朝比奈光太には手を焼くか」




私は小さく頷いて答える。




「というか………あの人と話していると、調子が狂ってしまって。

正直、どうやったら書いてもらえるのか、まったく分かりません。

今までのやり方が通用しないんです」




編集長はふむ、と言って私を凝視する。




「珍しいこともあるもんだなあ。

香月が弱音を吐くとは」




その言い方に、思わずかちんときてしまう。




「別に弱音なんかじゃありません。

事実を述べただけです」



「ほう? それで、朝比奈光太は今までの作家とは違うからお手上げです、ってか?

そりゃ、『泣く子も黙る敏腕編集者・香月智恵の名が泣くなあ」




冗談らしい口調ではあったけど、編集長の目の奥に真剣な色を読み取って、私はかなりの苛立ちを覚えた。




「………お手上げだなんて、一言も言ってません。

勝手な判断はやめてください。

私が本気を出すのはこれからです」




叩きつけるように言うと、私は「失礼します」と頭を下げて、室を飛び出した。




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