ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
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スローテンポのジャズが流れる、洒落たバーのカウンター。
照明を落とした薄暗い店内。
存在感を主張しすぎない、品の良いインテリア。
シャンパンで乾杯して顔を寄せ合い、小さな声でくすくす笑い合う紳士淑女たち。
………そんな洗練された雰囲気にまったくそぐわない、私の隣に座るこの男。
「………智恵ちゃん。
本気なの? 別れたいなんて………。
嫌だよ………。
僕、君のこと本当に愛してるんだ!!」
どこの三文映画よ、ってハイヒールで蹴りつけたくなるような、くっさい台詞。
虫酸が走る。
私は男をちらりとも見ずに、これ以上ないくらい冷たい声で告げた。
「ーーー飽きたのよ。
だから、消えて。」
ひゅうっ、と息を呑む音が聞こえた。
視界の端にうつっている男の手は、白くなるくらい硬く握りしめられ、ぶるぶると震えていた。
ーーーだっさい男。
完全に嫌気がさした。