ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
どくどくと勢いよく血の巡る音が、耳の中にこだましている。



私はうつむいて自分の爪先を見つめながら、何も言えずに加藤さんの言葉を聞いていた。




「でも、あれですよね。

可愛げがないことを差し引いても、こいつを連れて歩くのって、男にとっては誇らしいし自慢ですよね。

誰もが振り返るでしょう?


高校のときもずば抜けて美人でしたけど、今はまたさらに磨きがかかってますね。


智恵、もし朝比奈さんと別れたら、また俺と付き合うか?

なんてな、はははっ」




ーーーガツッ



加藤さんの乾いた笑いを遮るように、突然、何か硬いものが激しくぶつかりあうような音がした。



驚いて、反射的に目を上げる。




最初に目に入ったのは、頬を押さえて目を丸くしている加藤さんだった。


加藤さんの視線の先を、私は目で追う。



そこには、にこやかに微笑む朝比奈先生の顔があった。



先生は、胸のあたりでかたく拳を握りしめている。




それで、やっと分かった。



ーーー先生が、加藤さんを殴ったのだ。



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