ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
歩いていると、先生がふう、と息を洩らしたのが聞こえた。



そこで、唐突に申し訳なさがこみあげてくる。




「………先生、すみませんでした。

変なことに巻き込んでしまって」




小さく言うと、先生が首を横に振った。




「巻き込まれたなんて思ってないよ。

他でもない俺の運命の恋人、大事な智恵子のことだからね」




おどけた調子で冗談にしてくれたのは、気づかいからだと分かる。




「それにしても、あんな男と付き合ってたなんて………智恵子って、男を見る目がなかったんだね」



「………同感です」



「まあ、今は俺と付き合ってるわけだから、男を見る目がついてきたってことだ」




先生は自分で言って楽しげに笑った。




「にしても、俺、はじめて人を殴ったよ。

けっこう痛いもんだなあ」




ふらふらと手を振りながら、先生が顔をしかめてみせる。



「すみません」と私が呟くと、先生は「名誉の負傷ってことで」とまた笑った。





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