ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
そこまで話して、私はふいに口を噤む。




「………こんな話、つまんないですよね」




でも、先生は小さく首を振った。




「聞きたいよ、智恵子の話なら。

君が嫌じゃないなら、聞かせてほしいな」




『話してほしい』と言わない言葉の選び方に、先生の優しさを感じる。




「………本当に、つまらない話なんです。

安っぽい子ども向けの恋愛小説みたいな、ありきたりの話です」




私は細く息を吐き出して、念を押すように言った。




「みんなにとってはありきたりでも、君の人生にとっては、たった一回の、そしてきっとすごく大きな経験でしょ?

だから、そんなの気にしないで」




「………はい」




先生の言葉に励まされるように、私は話を続けた。



こんな話をするのは初めてだったし、自分の中でも忘れよう忘れようとしていたことだから、うまく話せるか不安だ。





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