ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「俺から見れば、どうしようもなく可愛いよ。


だって、智恵子はいつも一生懸命だから。

いつも全力で仕事をして、全力で生きてるから。


一生懸命なひとは、みんな可愛いよ」




先生の優しく柔らかい声は、鼓膜を湿らせて耳の奥まで染み込んでくるように感じた。




私は先生の顔を見つめる。


先生も私をじっと見下ろしてきた。



薄い唇の端が、きれいな笑みの形をつくっている。


柔らかく細められた少し垂れ気味の目が、まっすぐに私を見つめていた。




ーーーこんなふうに私を見る男は、初めてだ、という気がした。



色も欲もない、ただ穏やかに包み込むような瞳で。




そのとき、ふいに、

ふわりと春風が吹いたように、唐突に思った。




ーーーこのひとのことを、もっと知りたい………。





< 222 / 286 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop