ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
そんなことない、って反論したかった。



私は強いし、群れるのが嫌いで孤独が好きだし、一人でいるほうが気楽なのよ、って。



………でも、言葉が出なかった。




先生がゆっくりと瞬きをして、「俺はね」と呟いた。




「君をもっと抱きしめたい。


君にキスしたい。


ーーー君を愛したい」




どくん、と身体の奥のほうで音がした。



喉が引き絞られるような感覚。


息苦しい。



私は息を詰めたまま、瞬きも忘れて先生を見つめ返す。




先生が、ふ、と笑みをこぼした。


目尻が優しく滲む。




「………ねえ、智恵子。


早く俺のこと好きになってよ。

そしたら俺は、遠慮なく君のことを可愛がれる」




かあっと自分の頬が熱くなったことに、私は気づいてしまった。



こんなの、私じゃない………。



動揺する私をよそに、先生はまだ私を責めたてる。




「はやく、君のこと、思いきり愛させてよ………」




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