ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
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「よお、香月。
朝比奈先生のとこはどうなった?」
すれ違いざまに編集長に声をかけられて、私はうっと呻き声をあげそうになってしまった。
編集長が苦笑いを浮かべる。
「そんな露骨に嫌な顔すんなよ。
だめか、まだ」
「………すみません」
私は頭を下げる。
「………もう、無理かもしれません」
俯いてそう言うと、編集長はぽん、と私の肩を叩いた。
「ほんと、お前にしては珍しく手を焼いてるなあ。
まあ、貴重な経験だと思って、もう一踏ん張りしてみろ」
「なんですか、貴重な経験って………」
「うーん、初めての挫折、的な?」
編集長がにやりと笑って私を見下ろした。
思いがけない言葉に、私は目を丸くする。
「挫折………」
「そ、挫折。お前、優秀だからさ、勉強とか仕事とかで挫折したことないだろ?」