ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「ちょっと、なんでふたつ?」



「俺の分と、君の分」




男は空になった私のグラスを指差して、にこりと微笑んで答えた。




「は? けっこうです」と断ると、



「まぁ、そう言わずに。お近づきの印ってやつですよ」




と男はにべもなく笑った。



こっちとしては、近づいたつもりなんて、微塵もないんですけど………。



でも、あんまり無下に断るのも無粋だ。


上手に男に奢られるというのも、女の品格だからね。



一杯だけ、と自分に言い聞かせ、私は男の奢りで薔薇色のカクテルを頂いた。



その間も、男はにこにこ笑いながら私を見つめている。




「………見過ぎよ」



「いやぁ、目の保養ですよ♪」




男はやけに上機嫌だった。



さっきまで情けなく号泣してたくせに、ほんと、呆れた男だ。


女好きにも程がある。




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