ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
ふらふらと千鳥足で歩く先生の後を追い、声をかける。




「先生、鍵ありますか?」



「ん? 鍵?」



「部屋の鍵ですよ。私が開けますから、貸してください」



「鍵はかけてないよー」




先生は歌うように答えて、にっこりと笑った。




「………え、え?

鍵、かけてないんですか?」



「うん」



「かけ忘れたんですか?」



「ちがうよー、いつもかけてないだけ」



「えぇ………なんて不用心な」




ド田舎のおばあちゃん家ならまだしも、この都会のど真ん中のマンションで、鍵をかけない人がいるなんて。



でも、先生はあっけらんとしたものだ。




「だって、べつにうち、貴重品とかないからね」




たしかに先生の部屋には現金も、お金になるような家電もないけど。




「本が盗られたら困るでしょう」



「泥棒からしたら、本ほど重いのにお金にならないものはないでしょ。

わざと本を持っていくような物好き、あんまりいないんじゃない?


それに、盗まれて困るような大事な本は、金庫に入れてあるし」




なんだか色々突っ込みたいところだけど、こういう人だから仕方がないか、と思い直す。




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