ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
先生はあっけなく玄関を開けて、ふらふらと中に入っていく。


もう何度も足を踏み入れているはずの部屋なのに、なぜか入り口で躊躇ってしまった。




「智恵子? どうしたの?」




廊下の奥で先生が振り向いて待っている。



私は「……お邪魔します」と頭を下げて、ハイヒールを脱いだ。




「あー、酔っ払った〜」




先生は寝室に直行し、ぼすっとベッドにダイブした。




「先生、上着は脱いでください。

皺になりますよ」



「はーい」



「どうぞ、お水です」



「わあ、気がきくね、さすが。ありがとう」




キッチンでコップについだミネラルウォーターを渡すと、先生はごくごくと音を立てて飲み干した。



そらした首もとを何気なく見て、喉仏が浮かび上がっているのに気がつく。



当たり前のはずなのに、なぜだかどきりとしてしまった。





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