ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「あー、ねむい………」




先生はぼそぼそと呟いて、布団の中に潜り込む。




「………じゃ、私はこれで」




気まずさに耐えきれず、私は立ち上がった。



すると、ぐっと腕を引かれてよろめいてしまう。


視線を落とすと、先生が布団の中から私の手首を引いていた。




「………せん、せ」




離してください、と言おうとしたのに、声にならなかった。



先生がじっと私を見上げて、「帰るの?」と呟く。



その瞳があまりに澄んでいて、まっすぐで、私はなぜだか頷くことができなかった。




「………帰らないでよ、智恵子。

ここにいてよ………」




初めて見る、切なそうな顔。


かすかに震える、掠れた囁き声。



私はまるで腰でも抜けたように、ぺたりと床に座り込んだ。




「ありがとう」




先生は心から嬉しそうに微笑んだ。


手はつかんだまま離さない。



かたい掌の熱さに、なぜか息苦しくなる。




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