ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「………ねえ、智恵子」




先生は妙に甘い声で私を呼ぶ。


目を上げると、先生は微笑んで、寝転がったまま両腕を広げた。




「こっち、おいでよ」




薄いけど広い胸が、私を待ち受けている。



なんだかやけにうるさいな、と思って、よく聞いたら、それは私の心臓の音だった。




「おいで………一緒に寝よう。

何もしないから………ぜったい」




いつになく低くて甘い声に誘われるように、私は身を起こした。



そのまま腕を引かれて、気がついたらベッドの上に引き上げられ、後ろ向きで抱きしめられていた。




「あー、落ち着くなぁ………」




背中で先生の声がする。


えりあしに先生の唇の気配を感じた。




「智恵子、そんなに固まらなくていいよ。

本当に何もしないから………ただ、どうしても抱きしめたかっただけ………」




先生は少し眠そうな、気だるげな声で言う。



そのたびに首の後ろに息がかかり、私の心臓はさらに鼓動を早めた。




「なんだろう、すごくしっくりくるね。

これが運命の恋人だ………」




私は先生の胸と腕にすっぽりと包まれて、細く息を吐く。




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