ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「いやぁ、あの言葉は、本当に名言だよね………そうだよ、人間は、恋をするために生まれてきたんだよ。

恋は人生の全て。


ね、あの太宰が言ってるんだよ?

恋はひまつぶしのゲームだなんて、そんな悲しいことは言わないでよ」




まるで諭すように言ってくる男がうざったくなって、私は冷たい視線で応じた。




「………私、太宰は好きじゃないの。

自己陶酔型で思い込みの激しい、ただの中二病男じゃない。

ペンネームが『堕罪』だなんて、思春期の少年もびっくりの悲劇の主人公ぶりよね。

あんなヘタレで甘えたの、へなへなした男が書いた小説なんて、暗くて陰気で読めたもんじゃないわ」




一気に言い切ると、男はぽかんと口を半開きにしていた。




「………日本が誇る天才小説家の太宰を、そんなふうに言うなんて………」




私は軽く肩をすくめて、「何と言おうと私の勝手でしょ?」と嘯いた。





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