ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
私が先を促すと、編集長は私に何かをばさりと手渡した。




「お前、まだ余裕あるよな?

新しくその作家も担当しろ」




私は受け取った書類にさっと目を通し、小さく呟く。




「朝比奈、光太………。

たしか、三年前にうちの新人賞で大賞とってデビューした作家ですよね?」




その受賞作は、新人作家としては異例のベストセラーになったはずだ。


私はそのころ忙しくて、ちゃんと読む時間がなかったんだけど。



でも、そういえば、その後、『朝比奈光太』の動向は聞かない。




「まだ小説書いてるんですか?」




私が訊ねると、編集長が珍しく困ったように眉を下げた。




「朝比奈光太って作家はな、すげえ問題児なんだよ。

とにかく筆が遅いんだ。


デビュー作の後に、ひとつだけ短編を雑誌に載せたんだが、かなり評判は良かった。

だから、すぐに第二作の長編を書いてもらおうとしたんだが………。

急かしても急かしても、全然書いてくれやしない。


そのまま、二年以上だよ。

もう、手のかかること手のかかること」




編集長が大きなため息をついた。





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