ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
▽
「………ふぅ」
マンションのエントランスを出てから、私は大きな溜め息とともに、呆然と空を見上げた。
いつの間にか、外はすっかり夕方になっていた。
夕陽に沈んだ街。
遠くの高層ビル群が鮮やかなオレンジ色に染まっている。
この分じゃ、社に戻った頃にはすっかり夜だな………。
まだまだ仕事は残っているし、退社できるのは夜中になるだろう。
そう思った瞬間、どっと疲れがやってきて、一気に身体が重くなった気がした。
駅に向かって歩きながら、今日一日であったことを思い返してみる。
長い一日だった。
そして、なんだか、ずいぶんと変なことになってしまった。
今朝までには考えもつかなかった展開。
いきなり編集長に呼ばれて、朝比奈光太を担当することになり、
朝比奈光太の才能に度肝を抜かれて、
朝比奈光太のろくでなしぶりにさらに度肝を抜かれて、
最終的には、まさか、朝比奈光太の恋人になることになって。
「………なに、この展開?
ついていけないわ………」
こんな無茶苦茶なストーリー、そこらの三流作家だって書かない。
現実は小説よりも奇なり、ってやつ?