白と黒の携帯
あれから丸一日以上が過ぎた。
夜になっても徹は帰って来なかった。用心するに越した事ないからと、夜も照明をつけずに過ごした。
テレビも音楽もない、音のない闇の中。だから尚更徹の事を考えてしまっていた。眠れない夜。
翌日昼を過ぎても、夕方になっても何の連絡もない、携帯番号も知らないから連絡を取ることも出来ない。
カーテンの隙間から見える夜の雨………
私なんかを好きになったばっかりに、徹は心を痛めてる。私なんかを取り返す為に悪魔みたいなアイツと戦ってる。
全て私の為に。
私は?徹が好き?
分かんない。好きってどういうんだったっけ。昔感じた筈なんだけど………思い出せない。
「あれ………?」
頬に違和感。手で触れてみる。濡れて…る。
涙?
「私…泣いてる?なんで……涙なんかとっくに枯れたのに」
散々痛め付けられてもう何をされても涙なんか出なくなっていた。それがムカつくからとまた暴力を振るわれた。
なのに………
次々流れる涙。外で降りしきる雨のように…………
徹の事を考えるだけで涙が出て来る。
今どこ?
無事なの?
会いたい。
声が聞きたい。
胸が苦しい。押し潰されそう。
もし、徹の身に何かあったら………
ゾッとして背筋が寒くなる。まさか、まさか………
ドクン、ドクン……
心臓の音がやたらうるさい。ギュッと身体を両腕で抱き締める。
徹が負けたら自分は必ずアイツに捕まるだろう。何されるか分かんないけど。そんなことより徹が居なくなる事の方が怖かった。
そんなことになったら私、耐えられないよ………
「徹、徹………」
カタカタ振るえる手をようやく合わせて空に祈る。