白と黒の携帯
「ねぇ徹、あれ言ってよ」




私はまたいつも電話の切り際言ってくれてた言葉をねだる。

昨日は答えてくれなかったけど、私が今一番必要としてる言葉。今まで数え切れないくらい聞かされても特に何も思わなかった。それが当たり前だと思ってたから。
でも……今は一番聞きたいの。





「………あと五回。いい?あの黒い携帯に惑わされちゃいけないよ」

「徹?なんで言ってくれないの?いつもあれだけ言ってくれてたのに……惑わすって何?どういうことか教えてよ!」






まただ。声は徹なのに私が言って欲しい事は何一つ答えてくれない。感情がない………





「徹ぅ……寂しいよ。私……」

「答えちゃいけないからね。しっかり意思を固めて。俺との事、あと五回だから……」







プツン……







切れた。

何も言わない無機質な塊。
パチンとゆっくり閉じる。





「あ…れ……?」





視界がぼやける……はらはらと流れる涙。寂しい、凄く寂しい。
もうあの体に触れる事はできない。それもまだ割り切れないでいるけど、それ以上に徹の感情のある喋りは聞けないのか…


嬉しい事とか楽しい事があると少しテンション上がって早口になってた。いい事あったんだな、あ~ぁ子供みたいにはしゃいじゃってって呆れて聞いてたのが今は懐かしい。

イラッとしてたり腹立つ事ある時は、いつものハスキーな声がちょっぴり低くてちょっと迫力出るんだよね。あ~、今日は機嫌が悪いんだなってわかるからちょっと甘い言葉を囁いてあげるとご機嫌直っちゃってさ。すぐ調子に乗るんだからって突っ込むの。




「徹ぅ……」





降りしきる雨の中、今は主のいない旧前山邸の建物が静かに佇んでいた………………








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