白と黒の携帯
周りは黒い人だらけ。すすり泣く声にお線香のにおい……
徹のお通夜。
私は泣いていなかった。
泣いて泣いて涙なんか枯れちゃった。
「この度はほんとに……」
「いえ、美潮ちゃんだけでも助かってよかった。息子も本望でしょう」
お母さんと徹のお父さんがあいさつしてる。その隣りで泣いてる徹のお母さん。
ふと顔を上げる。目が合った。憔悴しきった顔がみるみる険しくなり、私につかみ掛かってくる。
「どうしてあなただけ生きてるの?」
「こらお前やめないか」
-そうだ。なんで私だけ生きてるんだろ-
おじさんが諫めに入るけど、おばさんの勢いは止まらない。
「なんで徹だけ…あの子だけ……あんたが海なんか誘わなければ!どうせならあんたも一緒に逝けばあの子は寂しくなかったのに!」
-そうよ。徹と一緒に逝けばよかったのよ-
「何を言ってるんだ!すいません。家内はあの日以来眠れないようで…少し休ませます。失礼」
泣いてるおばさんの肩を抱いて会釈だけして去って行くおじさん。口に出さないだけで心の中はおばさんと同じ事思ってる。
「美潮………」
「…………」
お母さんの心配そうな声に答えず、フラフラ向かった先は……徹の祭壇。
白い菊で飾られた遺影。
うっすら茶髪をいつものピンで止めて、ちょっぴり小麦色の肌に白い歯を見せて笑ってる。
あの日最後に見た笑顔と同じ…………
その下に横たわる棺。この中に徹が……
「ほら、美潮。徹くんにお別れ言いなさい」
お母さんに促されるけど……足が動かない。
「どうしたの?早くなさい」
ぐいぐい押される。強い力で引っ張られる。
「……っ、無理。無理だよっ!!」