白と黒の携帯
「美潮ちゃ~ん。実も蓋もないねぇ……叶ってないじゃん」
「なんでよ」
「だってさ……この恋、まだ一方通行じゃん?」
急に真剣になる徹の顔。
「美潮はまだ俺の事好きって言ってくれてないよね」
「そうだっけ……」
自分の気持ちに自信というか、確信が持てないでいる私は、まだ徹に好きって言ってない。
「だからさ。この恋が両思いになるように、ジンクス信じてみようかと思って」
あ、急に優しい笑顔になった。
徹は本当に表情がクルクル変わる。感情が豊かなしるし。私にはない徹のいい所……
「分かったよ。で?何すればいいの?」
「特にはないんだ」
「え?どういうこと?」
今一つ飲み込めない。きょとんとしてる私に、徹はちょっぴり照れたように視線を逸らす。
「『旧講堂のステージの上で、キスをした人と結ばれる』」
「は?」
なんなの?その鳥肌もんのメルヘンチックなジンクスは~。キスなんかしなくても、こんなとこに誘い込んだ時点で両思い確定でしょうが。
でも話にはまだ続きがあった。
「『キスした相手と一緒に、ステージ裏の壁に名前を書くと、その人と一生幸せになれる』」
「何それ……」
バカバカしい。そんなんで叶うんだったら誰も苦労しないんだよ。
噂だの、ジンクスだのを信じていない私は、妙に覚めていた。
でも、そんな私の手をそっと握る徹の目は真剣。
五年もひたすら私を想ってくれてて、気持ちが通じる為のジンクスを、信じたい気持ちもわからなくもないけど………
この時の気持ちなんてそんなもんだった。
ただ、この後、徹に対するその気持ちが急速に変わっていくことに、まだ私は気付いていなかったんだけど………