白と黒の携帯
「美潮……い?」
「別にいいけど」
あ、私今嫌な感じだった……自分でも感じるくらいそっけない返事。
徹の動きがぴたりと止まる。真剣な目でゆっくり近づいて来た顔がすっと離れる。
「…やっぱいいや、止めとく」
「えっ、なんで…」
気まずそうにフロアに向かって逸らされた視線……
「や……無理矢理すんの趣味じゃねーし」
寂しそうな悲しそうな横顔。
違うの。
嫌じゃないの。こういうとき、どう返事していいかわかんないだけ。好きって気持ちがどんなものか、まだわかんないけど、私だって………徹のこと嫌いじゃないんだよ?
そう思っていても口から出てこない。
素直に口に出して言えばいいのに、そんな勇気もない小さな自分が、堪らなく嫌になる。
素直になろう、もっと可愛いげある子になろうって決めてここに来た筈なのに………
しばしの気まずい沈黙を破ったのは徹だった。
「帰ろっか」
まだ寂しさを含んだ笑顔が堪らない。私は、なんでこの人にそんな顔させるの?私は今、何を望んでるの?答えは決まってるじゃない。
神様少しだけ勇気をください!
グイッ!
「うわっ……何っ」
ガッターン!!
「いってぇっ!」
私は背を向けた徹にしがみつき、勢いに任せて押し倒した。気付くと、仰向けになった徹に馬乗りになって胸倉を掴んでいる。
床にしこたま頭を打った徹は涙目になりながら後頭部を摩る。
「何~?」
「やじゃないの!」
「え………」
「キス、やじゃないの……可愛いげなくてごめん!」
ムードもへったくれもない、これだけまくしたてるのが精一杯だった。
多分、今顔が真っ赤。一方、ビックリした顔で私を見上げてる徹。
「……なんか言ってよ」
「ん?……あぁ」
急に真面目な顔に戻って、ぱたりと腕を投げ出した。