白と黒の携帯
『俺との過去を振り返らないと約束して欲しい。そうすれば……』
「そうすれば?」
『きっと自由になれるから』
「どういうことなの?なんで徹を想っちゃいけないの!?」
感情的になって泣きじゃくる私の問いには答えない。さらに続ける。
『それから…これだけは守って欲しい』
「ぐすっ…何?」
『黒い携帯。そこから聞こえる声に惑わされちゃいけないよ。そしてそれに答えてもいけない』
「なにそれ。よくわかんないよ!ねぇ、いつものやつ言って?安心したいよ、徹ぅ」
何がなんだか分からなくて不安な私は、いつも電話の切り際に徹が言ってくれるある言葉をねだった。
でも………
『約束は守ってね。あと六回。信じてるよ美潮』
それだけ言うと電話は切れてしまった。
なんで?なんで忘れなきゃいけないの?
ううん、心配してるんだ。きっと私が徹を引きずって先に進めない事を………。
分かったよ。徹に心配かけたくないもんね。
あと六回話したら………私、徹とお別れするよ。
でも………
黒い携帯……なんだろう。私を惑わすもの?
血に染まった携帯だと思ってたけど、液体はついていない。でも血痕と呼ぶに相応しいくらいリアルなのだ。
それでもなぜか恐怖を感じない。徹の物だから?見てるだけで気持ちが暖かくなる気がするのは思い出が沢山詰まっているから…?
今は何の音もしないその徹の黒い携帯と、自分の白い携帯を私は空が明るくなり始めるまでじっと見つめていた―――――――