【短】俺の花嫁!
一時の気の迷いではないのか、脳内でそんな考えがよぎるが、煌が優秀なことを知っているだけに、その考えは却下される。
確かに、煌には今まで自由は与えられなかったが、それでも――
中々、煌の申し入れに簡単にYESとは言えない。
『彼女のお名前は?御職業は?当然、分かっていらっしゃるのよね?』
『それは――…。』
母の質問に、煌は何も言えなかった。
パーティーで出会った彼女の素性は、全く知らない。
唯一の手掛かりは、秋元企業の娘の友人であるということだけだ。
『彼女の名前も、年齢も、職業も、存じ上げません。』
煌の言葉に、その場にいた全員がざわつき始める。
いくら何でも、情報が少なすぎる。
反対の意を孕んだ両親と祖父母に、煌は訴えかけるように口を開いた。
『ですが、彼女は俺を一人の男として見てくれました。小鳥遊家のことを知らず、俺の名前も知らないまま、俺自身を見てくれたんです。そんな人は、もう一生出会えないと思っています。俺は、彼女の肩書きに惚れたんじゃなく、彼女の内面に惹かれたんです。どうか――彼女との結婚を、認めてください。』
煌が人に頭を下げたのは、この時が初めてだった。
自身のプライドを捨ててでも、彼女を手に入れたいと強く思う、意志の塊だった。