マキシマムベッド
乱桜
菊子はため息をついた。
時間を潰すため、行きつけの居酒屋である『朧月夜』の、カウンターに座りタバコを吸っていた。
朝の7時。
朧月夜の店主はカウンターに座る菊子にフレンチトーストとスクランブルエッグ、コーンスープを出した。
「ここは喫茶店にでもなったの?トットちゃん」
菊子がそう悪態付く。
トットちゃん。そう呼ばれるあだ名とはかけ離れた厳つい顔をした店主、斗荻・享。
「お前が朝から来るから作ってやったじゃねぇか」
「特別待遇、特別待遇」
この朧月夜は午後五時~午前二時まで年中無休で開いてる。
享は今年で45歳だが独り者で一人で朝の6時半に起きて仕込みをしているのだ。
「なんだ?ケイと喧嘩か?」
ケイ。享が出した名前は、大林・慶人だ。
慶人と享は同い年で幼い時からの親友らしく菊子にとっても特別な存在なのだ。
「・・・・・違う。私も大人なんだからそう頻繁に喧嘩なんてしないよ。」
「何が大人だ」
享は菊子の加えていた火のついたタバコを取り上げる。
「あっ!」
「ケツの青いガキの癖に一丁前にタバコを知ってんじゃねぇよ。ガキ」
取り上げたタバコを自分の飲みかけのコーヒーの中に入れた。
ジュッ、と音を立て灯火が消える。
「トットちゃん!何すんの!?一本のタバコは一本の骨なんだぞ!!」
「何が一本の骨だ。クソガキ」
「ガキガキうっせぇよ!クソジジイ!」
「女がクソ言ってんじゃねぇよ・・・・・。相変わらず口わりぃなぁ・・・・・。」
「ケッ、生まれたからずっとオヤジに囲まれて育ったんだよ。口が悪いのは愛嬌だ!愛嬌!!」
菊子がそう言えば享は溜息をついた。
なんでも愛嬌という一言で済ますのは、慶人のクセだ。