花の下に死す
 「……若い側室に入れあげて、国を傾けるだなんて。遠い昔、唐の玄宗皇帝と楊貴妃みたいなことにはならなければいいのだけど」


 酒の勢いもあって、義清はいつもより大胆な物言いだった。


 「長く連れ添い、国母であられる待賢門院藤原璋子さまを軽んじるのも、道理にかなわぬ」


 「義清、珍しくはっきり言うな。聞く人が聞いたら、鳥羽院への不満とも受け取られるぞ」


 「だが、待賢門院さまが……」


 一度も会ったことのない藤原璋子をなぜこれほどまでに庇うのか、義清自身にも分からなかった。


 「言っちゃ悪いが、待賢門院さまは自業自得だぞ。今日の不遇を招きよせたのは、他ならぬあのお方のこれまでの行ないによるものだ」


 「……どういうことだ」


 義清は同僚の言っている意味が分からず、問いただした。


 「噂を聞いていないのか、お前」


 「?」


 「待賢門院さまは亡き白河院の取り決めにより、その孫であられる鳥羽院に入内なさったよな」


 「そういう話だな」


 「だがその白河院と待賢門院さまは、長きに渡って密通を続けていたらしい」


 「えーっ!」
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