花の下に死す
 「だ、大それたことっていったい何だ」


 平静を装って、義清は聞き返した。


 「例えば……。堀河さまを誘惑して、待賢門院さまの元へ手引きさせるよう仕向けるとか」


 「ば、ばかだなお前。源氏物語の読みすぎじゃないの」


 義清は突然笑い出した。


 笑うしか方法がなかったのだが、かえって清盛に不自然に思われやしないか、気が気じゃなかった。


 「わ、私が待賢門院さまに? そんなことあるわけないだろ。もしそんな大それたことをして発覚でもしたら、私の身の破滅だ。いくら冷え切った間柄とはいえ、待賢門院さまと関係を持つなど、鳥羽院への反逆とみなされるだろうし」


 「本当に大丈夫なのか?」


 清盛はまだ、半信半疑といった表情だった。


 「当たり前だろ。私は色恋沙汰に目がくらんで一生を棒に振るほど、愚かじゃない」


 「信じてもいいんだな」


 「答えるまでもない」


 「家族を泣かせるような真似だけはするなよ。特にお前の可愛い娘。将来俺の息子と結婚させる約束だからな」


 「分かっているよ。分かっているさ」


 義清は口先だけの言葉で清盛をなだめすかし、肩を叩いた。
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